【フォトエッセイ】星空をめぐる旅、そして物語◎永田美絵——第10回/賢治とたどる銀の河

第10回 賢治とたどる銀の河

 この夏は、ドラマの監修をしたり映画の試写会で話したりと、星に関するいろいろなお仕事をさせていただいたのですが、最近は、星にまつわる物語が多いように感じます。 

 日本で星をテーマとする物語の代表作といえば、童話作家・宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」でしょう。孤独な少年ジョバンニが親友のカムパネルラと銀河鉄道に乗って夜空を旅するお話です。 
 この物語のすばらしさの一つは、実際の星の位置に合わせてストーリーが展開されていくことです。二人を乗せた列車は、「白鳥の停車場」や「アルビレオの観測所」「鷲の停車場」「蠍の火」といった夏の星々をめぐるように進んでいきます。 

 アルビレオは「はくちょう座」のくちばしの部分に輝く3等星の恒星です。肉眼では一つの星に見えますが、望遠鏡で見ると二つの星だと分かります。 
 賢治は「銀河鉄道の夜」の中で、この星を「眼もさめるやうな、青宝玉[サファイア]と黄玉[トパーズ]の大きな二つのすきとほった球が、輪になってしづかにくるくるとまはってゐました」と書いています。 

 賢治が生きた時代には、アルビレオは二つの星が互いの周囲を回る「連星」ではないかと考えられていました。 
 しかし2016年に、この二つの星は地球から見て同じ方向に位置しているだけで、本当は離れている「見かけの二重星」だと発表されました。私たちには青い星と黄色の星が並んで見えますが、これらは遠く離れた場所にあったのですね。 

 賢治が星座を好きになったのは、どうやら中学生のころのようです。屋根に上り、星座早見盤を使っていつまでも星を見ていたという記録があります。そんな賢治だからこそ、星座がたくさん登場する「星めぐりの歌」を作ったのでしょう。 

 あかいめだまの さそり 
 ひろげた鷲の つばさ 
 あをいめだまの 小いぬ、 
 ひかりのへびの とぐろ。 

「あかいめだま」はさそり座の1等星アンタレスのことで、赤く見える星。わし座は、1等星のアルタイルから両側に星が並び、鷲が翼を広げているように見えます。こいぬ座のプロキオンは1等星で青い星です。 

 この歌には、さそり座、わし座、こいぬ座、へび座、オリオン座、アンドロメダ座、うお座、おおぐま座、こぐま座が登場します。 
「アンドロメダの くもは」という歌詞がありますが、これは当時アンドロメダ星雲と呼ばれていたアンドロメダ銀河のこと。 
「大ぐまのあしを きたに/五つのばした ところ。」という歌詞からは、おおぐま座の一部である北斗七星のひしゃくの先に当たる二つの星の距離を、ひしゃくの先から五倍に延ばしたあたりに北極星があることが表現されています。なんともよくできた歌詞です。 
 星座早見盤をくるくると回しながら夜空を見上げ、天の川をたどって星座を探す賢治の姿が目に浮かぶようですね。 

 皆さんも夜空を見上げて、賢治が愛した星座を眺めてみてはいかがでしょう。賢治と一緒に銀河を旅した気分になれるかもしれません。 流れ星は毎日飛んでいます。ぜひ夜空を眺めて、みなさんの心の中に素敵な風景を増やしてくださいね。 

北斗七星のおおぐまとこぐま

写真提供=「旅する星空解説員」佐々木勇太

永田 美絵

ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら

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